エゴをフルスロットルで振り回した結果ロナルドくんがモブと結婚し、子供を作るドラロナ。倫理観がかけている。
そして末長く幸せに
ドラルクはロナルドくんのことがとても好きだったので、彼が人間として自分より先に死ぬことなどどうして了承できず、勝手に吸血鬼化して一緒に生きようと思っていました。ところがなんとロナルドくんには吸血鬼の才能が0で、使い魔にしたら自我なくなるかもしれないということがわかってしまいました。ロナルドくんを人間のまま見送るしかないのだろうかと、ドラルクはたくさん考えた結果、ロナルドくんに子供を作ってもらうことに決めました!
ドラルクは君が嫌なら別にお兄さんや妹さんの子供でも……とロナルド君に言ってロナルドくんにはバチクソにキレられましたが、キレられたけど私はやるよ、君は死んだらどうせ何もできないんだからねと脅した結果、結局ロナルドくんは自分で子供を作ることに決めてくれたようでした。
子供は二人作りました。万が一のことを考えたドラルクからのリクエストにロナルドくんは従いました。子供がいるからには生んだ人間がいますし、生んだ人間とロナルドくんは結婚したようですが、ドラルクはあまり興味がありませんでした。ロナルド吸血鬼退治事務所は相変わらずそこにあって、連休の日だけはロナルドくんは事務所にいませんが、それ以外は以前の通りです。
たまに子供を連れてくるのですが、ロナルドくんに本当に似ているので、「君の遺伝子しか感じないね」「目まで雑魚になったのか」などというやりとりや「ロナルドくん(中)もロナルドくん(小)もかわいいね、ロナルドくん(大)」「なんなんですか、ドラルクさん(砂)」というやりとりもしていました。
なにせロナルドくんはドラルクに子供の名前を教えてくれないのでドラルクはロナルドくんの子供たちをロナルドくんと呼ぶしかできないのです。それもドラルクにはどうでも良いことでした。本当の名前なんて調べようと思えばすぐ調べられますし、実際のところロナルドくんの子供たちはドラルクにとってはロナルドくん(小)でもロナルドくん(中)でもなく、ロナルドくん(仮)なのですから。そんな感じで日々をつづがなく過ぎていました。
そんなある日ロナルドくんに病気が発覚してしまいました。年齢を考えると早いなあとドラルクは思ったので「死ぬの早くない?」というと、ロナルドくんは少し面食らった顔をしてから「いやぁ、こんなもんだろ」と言いました。
事務所は閉めることにしたようですが、ロナルドくんは子供と子供を産んだ人間のいる家にはあまり帰りませんでした。その代わりに子供を連れてくることが増えました。相変わらず子供はロナルドくんそっくりです。ロナルドくんはいつもドラルクのことをきちんと子供に紹介します。ドラルクも子供に取り入るのは本気です。嫌われて接触を絶たれてしまっては、何のために子供を作ってもらったのかわからなくなってしまいますから。
そういうわけで子供がやってくればドラルクはご馳走を作ります。子供の味覚はロナルドくんとそっくりなので、ファミレスみたいなメニューになります。ドラルクは子供がやってきたとき、時々ローストチキンを振る舞います。ロナルドくんが結婚をした日の夜、薬指に指輪をして帰ってきた日に小脇に抱えていたオーブンでじっくりと焼くのです。シンプルな機能しかないオーブンはそれゆえに全然故障をしません。
ドラルクはすっかりと子供達と仲良くなっていました。これでロナルドくんが死んだ後も何の心配もありません。ジョンの故郷の丘のアルマジロたちのように、ロナルドくんの血が連なる彼らに関わっていけることでしょう。
やがてロナルドくんの死ぬ日がやってきました。
ロナルドくんはドラルクの棺の中ですやすやと寝ていたのですが、真夜中になるほんの三分前に目を覚ましました。棺のそばでドラルクはロナルドくんを見下ろしながらふと「最後にもう一回足掻いてみない?」と言いました。ロナルドくんはそれもいいかなあと思ったので、「そうだなあ」と言いましたが、頷きはしませんでした。
ドラルクの牙は闇の中で白く浮かびあがっていて、ロナルドくんは随分と昔に自分に打ち込まれて、活性することもなかったものについて考えました。「でも無理だろ」とロナルドくんは言いました。なにせロナルドくんを勝手に吸血鬼化、あるいは使い魔にしようとしたドラルクの根気と気合は半端なものではなく、およそ考えつく限りのことは試し尽くした後でしたから。そうでなければどれだけ家族のまだ見ぬ子供を人質にされたからと言って子供を作るなんてこと了承するはずもありません。
けれどドラルクはゆっくりと跪いて、ロナルドくんに顔を近づけます。「だってさあ」それはドラルクがロナルドくんに子供をねだった時と全く同じ響きをしていました。「君が死んだ後にしか君の全てを占有できないなんてずるいじゃないか」ドラルクの言葉にロナルドくんはすこし呆れました。子供を作れと請われなければ、ロナルドくんの全てはドラルクの物でした。いうならば最初からそうでしたし、なんだったら子供ができてからだって9割くらいはドラルクに割いてきたと思っていました。「わがままめ」と言うと、ドラルクは「君に言われたくないんだけど」と答えました。それからゆっくりとドラルクが顔を近づけてきました。牙がいやに白いのがよく見えました。
ロナルドくんが息を引き取ったのは真夜中過ぎでした。ドラルクはロナルドくんがすやすやと寝ていた棺の蓋を閉めて、蓋の上にゆっくりと耳をつけました。棺の硬い感触が自分の肌や頬に触れてわずかに冷たく感じました。それからすこしだけ声を上げて笑って「やっと君を独り占めだね」と呟きました。
明日には子供たちがやってくるので、ドラルクは子供たちのことをロナルドくんと呼ぶでしょう。なにせそう言う約束だったのですから。