地獄でなぜ悪いの続きというか、最後に行き着くところ

倦怠

ドラルクは自分の腕の中につまらなそうに収まっているロナルドの横顔を見ていただけだった。伏せられた目が暗闇の中で光っている。それが死んだように淀んでいるのに気がついてしまった。
 ドラルクが後悔を自覚したのは、ロナルドが吸血鬼になって百年以上経った後のことだった。ドラルクがロナルドを吸血鬼にした理由は単純で彼があまりにも早く死んでしまったことが我慢できなかったからだ。だから吸血鬼として随分と時間をかけて蘇った彼が、生前の記憶を持っておらず、以前の彼と全く違っていてもさほど問題にはならなかった。それならそれで楽しむ方法はいくらでもあったし、人間の記憶を欠片も持っていなかったとしても、そんなものはこれから流れる時間に比べれば些細なことだった。
 ドラルクは不可逆なことを悔やむような習慣を持っていなかったし、さらに言うのならばそれを引きずることもほとんどなかった。正確を期すとすれば吸血鬼のロナルドと過ごして随分経ってから芽生え始めた気持ちをドラルク自身理解できずに、理解できないことを五十年ほど放っておいてから、いまとなってようやくその感情が後悔であると理解した。
 彼が以前人間であったことをドラルクはすっかりと思い出し、腕の中のロナルドが永遠を倦んでいることに気がついてしまった。

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