カジノのディーラーの反転ロと客の反転ドがキメキメの会話するやつだよ。コブラでディーラーの女の子が出てきたのが可愛かったから反転ドロで見たかっただけの話だし、お嬢様はお嬢様という性別なのでよろしくおねがいします

ブラックジャック

 黒海沿岸を時計回りにぐるりと周り、ボスポラス海峡を通ってアドリア海に抜けるクルーズはその半分の日程を終えたところだった。豪華客船の名に恥じぬ客室と、船が航行している間、客を楽しませようとするショーやバーやラウンジやショップが過積載と言っても良いほどに詰め込まれている。
 ドラルクがカジノに足を向けたのは、結局はそれが一番時間を潰せるからに他ならなかった。中欧を中心にトルコを抜け、ギリシャへと向かう船はそのクルーズ内容を模してか、カジノの内装はラスベガス風のぎらりとした華やかなものではなく、白と黒を基調とした落ち着いたものとなっていた。カジノのイメージカラーである赤がインテリアの中で品よく配置されている。スロットやジャックポットなどのマシンは少なく、どちらかといえばディーラーがついているテーブルでのカードゲームを基本としているようだった。
 ドラルクはカジノの雰囲気を見るように漫然と店内を歩く。
「ここ、いいかね」
「もちろんですわ」
 入り口から歩いて一番奥のブラックジャックのテーブルに開いている席を見つけて、そうディーラーに声をかけると、カジノのイメージカラーである赤色のシャツに黒いベストを着た銀色の髪のディーラーは笑ってそう言った。席についたドラルクをじっと見つめる瞳の青色は今浮かんでいる海よりも静かで穏やかだ。
 ドラルクがついたテーブルには彼以外にも4人の客が座っていた。それぞれがチップを賭けるとディーラーは淀みない仕草でカードをカードシューから抜いて配る。プラスチック製のトランプがテーブルを滑る音が小気味よくドラルクの鼓膜を撫でた。
 ブラックジャックはポーカーなどと違い客がディーラーと直接対決をするゲームだ。ディーラーの繊細な手つきでめくられた彼の持ちカードはダイヤのクイーン。対してドラルクは絵札でもエースでもない中途半端な数字が並んでいる。合計は12で、難しいところだった。端の一人は欲をかいて数字があふれバーストし、ドラルクの右隣の人間は慎重なパーセンテージプレーヤーなのか弱気なところで札を止める。
 ドラルクは少し暗い緑色をしたテーブルを指先で二回叩き、カードを要求する。1枚、ディーラーからカードが配られる。手元にピタリとくるそれはクラブの3だ。もう一枚。ハートの5がやってくる。合計で20。ドラルクはしばらく考えるように、動きを止めた。それから、もう一度テーブルを叩く。ディーラーは先ほどと同じ、淀みない仕草でカードをドラルクの手元へと配った。やってきた手札はクラブのエースだ。驚いたように、ディーラーが目を見開く。
「おや、ブラックジャックだ」
 もっとチップをかけておけば良かったね、とドラルクはつまらなく聞こえるように呟いた。実際は、目の前の美しいディーラーをわずかばかりでも驚かせたことに、すこし浮かれていた。
「お見事ですわ」
 ふわふわと柔らかい銀色の髪がシャンデリアの光を反射して揺れるのが、彼が浮かべている笑顔のようでドラルクは気分が上向いてきたのを感じる。カジノでディーラーを打ち負かすことはそれなりに楽しいことの一つだ。
 ドラルクの左隣の二人もドラルクには及ばないまでも、それなりに数字を積み重ねる。手札が出揃い、ディーラーが、ノーモアベッドと慣れた声で告げる。
「けれど、わたくし、運は良い方ですのよ」
 ディーラーの手元に伏せられた一枚がめくられる。そこにあるのはダイヤのエースだ。
「クィーン・ジャックですわ」
 すこし楽しげな響きの声とともに、ディーラーはカードを披露し、少し頭を下げる。
 驚くのはドラルクの番だった。ドラルク以外のプレイヤーはチップを没収される。ディーラーは役の名前を告げはしたが、役に特別な配当はないようで、ドラルクへのささやかな意趣返しといったところだったのだろう。
「君は本当に豪運らしいな、お嬢様」
 物腰を揶揄するように、声に悔しさを含めて告げると、ディーラーは偶然ですのよ、と笑う。
「続けられますか?」
「もちろんだとも」
 戻ってきたチップをベッドして、ドラルクはゲームを続けることにした。小一時間ほどプレイするが、勝ち負けはとんとんと行ったところだった。熱中して続け、いつのまにかチップを全て失った客が何人かドラルクの隣に座って去っていったので、なるほど彼は良いディーラーなのだろう。人を熱中させるゲームプレイというものがうまかった。あと一枚、良いカードがくれば、あるいはこのカードを引かなければ、大量のチップを手にしていただろうという幻想をうまく見せている。ドラルクの手持ちのチップも大きく増えもしたが、現状じりじりと減っている。
 いつの間にかテーブルにはドラルク一人しか座っていなかった。ディーラーの彼は仕事を全うし、ドラルクが望む限り何時間でもカードを配り続けるに違いなかった。ベッティングエリアにチップを全てかけて、ドラルクは勝負に出ることにした。
 あら、とディーラーは声をあげる。
「今まで随分と堅実にプレイされてましたのに、急に勝負に出ますのね」
「君との時間は大層楽しくてね、ここで終わりにしないと君の労働時間を大幅に伸ばしてしまいそうだ」
 ドラルクの冗談に、ふふ、とこぼれるように彼は笑った。それも楽しそうですわね、と何百回と繰り返してきたのだろう滑らかさでカードを扱いながら言う。
 ドラルクの手元にやってきたのはスペードのキングだ。ついでダイヤの10。合計で20になった数字は、ドラルクがこのテーブルについた当初のゲームの手札とよく似ている。
「勝負なさいますか?」
 ディーラーの手元のカードは6だ。ここで止めても勝てる可能性は高いだろう。だがドラルクはテーブルを叩いて、カードを一枚要求する。
「強欲ですのね」
「吸血鬼ってものは皆欲深いと昔から決められているのだよ」
 彼の髪色よりもわずかに鈍くひかる銀色のカードシューに指先を乗せて、素早く彼はカードをひく。ドラルクの手元にやってきたカードはクラブのクイーンだ。21を超えて、ドラルクはバーストする。あっけない幕切れに、わずかに不満そうなため息が彼の唇から漏れたようにドラルクには聞こえた。
「最後はつまらない勝負になってしまったな」
「あら、そんなことありませんわ。よくあることですもの、まだ勝負を続けていたいくらいでしてよ」
 くすくすとからかうように彼が笑うのを、ドラルクは負けたと言うのにどこか心地よい気持ちで聞いていた。ベッティングエリアから持っていかれるチップを一枚でも残しておけば、ディーラーチップでも渡せたものを失敗したな、と少し熱くなっていた自分にドラルクはどうにも調子が狂っているのを自覚して、それを隠すようにディーラーに尋ねる。
「お嬢様、君の名前をお伺いしても良いかな?」
 楽しい時間を過ごさせてもらった、と続けると、悪戯をするように彼は口の端を上げて微笑んだ。
「では、それを次の勝負のベッドといたしましょう。またお待ちしておりますわ」
 ありがとうございます、と美しく微笑んだまま彼は恭しく頭を下げた。

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