人間も助けられないし、吸血鬼ともお話し合いできないし、最後が燦々たる結果になることもあるし、なんか疲れちゃうよね、みたいなお嬢様、とそれをみている反転ド
踊りましょうよ
踊りましょうよ、と彼が言う。
血塗れの床の上には軽すぎて空中を舞っていた塵たちがしんしんと空気の流れを可視化するかのように流れ落ちていく。正方形の黒と白のタイルが規則正しく並んでいる床に落ちてしまえば、雨まじりの雪のように血に紛れて見えなくなってしまう。
アールヌーヴォー調の美しい花々が刻まれた硝子棚にしまわれていた、血液を保存するための曲線の滑らかな瓶たちは全て割れて床に落ちている。その上でブーツが汚れるのが意識の端にすら登らないのか、銀色の髪を揺らして彼は言う。
踊りましょうよ、ドラルクさん
ドラルクはため息をついて、ロナルドの手を取るかどうか考える。血の匂いむせ返る芳しい洋館の一室で、愛しい退治人の手を取るかどうかを。
「こんなに血の匂いがしていては、紅茶の香りもわかりませんもの」
「だったらまず君はここから抜け出して、湯でも浴びるべきだと思うがね」
どうだろうか、ロナルド君、と恭しく手を差し出すと、床の上で蟠る血液の上の彼の足がぴたりと止まる。それから彼は花の綻ぶように笑った。
「そうかもしれませんわね」
連れていってくださるのかしら? と笑う彼を抱き抱えるべくドラルクは粘着き始めた血溜まりに足を踏み入れる。