憂鬱だったので、世界の終わりの嘘予告ドラロナを書いた
世界の終わり
ある日目を覚ましたら、世界はすっかり終わっていて。俺の隣にいるのは最弱の吸血鬼ただ一体だった。そいつをずっと守っていたはずのアルマジロはそこにいなくて、無理やりそいつがよこしてきた心臓はまだ俺の胸の中でさらさらと音を立てていたけれども、そいつはまんとで体を隠してただ俺が目を覚すのを待っていたみたいだった。
「世界が終わってしまったよ」とそいつは言ったので、俺は「俺は世界を守ったと思ってたんだがなあ」と答える。そいつは肩を竦めてから「確かに君は世界を救った」と付け加えた。
世界は終わってしまったので、空は燃えるように赤く、月の輪郭は締まりなく、溶けるように欠けていた。夜が明るいのは記憶の限りではいつものことだったが、この終末の空は人類をどうにか守っていた白夜よりもずっと明るく、また熱かった。
「君が目を覚すのをずっと待っていたんだよね」と俺が収まっていたらしい棺に腰掛けて、そいつはため息をついた。すこし悪いような気がして「随分と待たせたみたいだな」と呟くと、そいつは笑って、伸びをする。
「本当にずいぶん待ったよ」
なにせ世界は終わってしまったもの、とそいつは言う。それから「これからどこに行こうか」と俺を誘うように手を差し出した。俺はその瞬間、色々なことを考えたけれど(例えば、俺がこの棺に収まってからどれくらいの月日が経ったのだろうとか、世界は本当に終わってしまったのだろうかとか、そうだとしたら終わらせたのはこいつなのではないだろうかとかだ)まるで女をエスコートするように手を握られるのを待っているそいつが、途方にくれたみたいな顔をしている気がして、仕方ないなと手を取った。
遠い昔に自分がお前を殺すまではとこいつの手を取ったことを思い出したが、予想外にたった二人で世界の終わりに立ち会うことになってしまった。
「私は本当に真祖にして無敵の吸血鬼になってしまったなぁ」とそいつが満足そうに言うので、俺はそいつに手を引かれながら、「お前が無敵とか笑えるわ」と笑う。
すると俺の手を握ったままで、そいつは嬉しそうに俺の名前を呼んだ。悪くないなと思った。