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#4 足音、耳、一目惚れ/ドラロナ
君のことが好きだった。例えばヒナイチ君のように、例えばメビヤツに愛着が湧いたように、ジョンほどではない。というかジョンという存在に比較という概念は存在しない。だから君は人間の中のワンオブゼム。お気に入りの一人。だってとっても面白いから。そういう風に思っていたし、それで良かったし、困りもしなかったのに、なんていうことだろう!
君が人間らしく当たり前に死んで、私はそれを知っていたから当たり前に悲しんで、悲しみをジョンやお祖父様と分け合って、新横浜の吸血鬼たちと慰め合って、これから先も死んでは生まれていく人間たちをからかい、楽しく生きていくはずだったのに!
気がつけば私の中にはすっかりと君は居着いて、あらゆる騒動の合間に私は君のことをちらりと考える。交響曲の中のユーフォニウムみたいに、海の底で流れる深層海流みたいに。君の赤いジャケットの端が視界の端の曲がり角で、銀色の髪の先の光が外灯の向こうに、君のブーツがアスファルトを叩く音が見知らぬ他人の足元から。
君のことが好きだった。私は戯れに君の面影に声をかけて耳をすませてみる。そこには何もないから私の声だけが返ってくる。耳馴染みのない響きに私は唐突に気付く。君のことを愛している。
それはまるで一目惚れみたいな衝撃で、特別に死にやすい私は、君が特別だと気づいただけで死んでしまった。
仕方ないなとため息をつく。私は君のいない空白と、日常と意識の底にふと見え隠れする君の面影を飽きるまで愛そうと考える。
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#3 声、香り、別れ/ひねりなくシンプルなドラロナ(死後)
一番最初に忘れるのは声で、最後まで覚えているのは香りだと聞いた事があるけれど、君がいなくなってしまってから、君の形と寸分違わぬ空白が私の隣に存在していて、そこにゆっくりと時間が霧のように、雪のように降り積もっている。霧は風に吹かれて晴れて、雪はやがて溶けるから、君の形の空白はいつだって変わらず存在していて、私は君の声も香りもすっかり忘れたけれども、この空白を二度と蘇ることのない塵が埋めてしまうまで、私は君の形だけをいつまでも覚えている。
隣のそれに風が吹き込むとびょうびょうと風鳴りがうるさい。この風鳴りを寂しさというのだろうか。
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#2 甘い、突風、飲み込む/唐突にドラルクのこと好きだと気づいたロナルドくんのドラロナ
突風みたいに唐突で、舌が痺れるくらいにどうしようもなく甘い感情だったので、持て余して見なかったことにした。あいつの作ったクッキーはきちんとヒナイチとジョンと俺用に分けてあって、食べるとチョコの味がして甘くてうまかった。今気がついた感情よりもよほど上品でこいつは他人を好きだと気づいた時も、こんな風にさりげなくて、美味しくて、バランスのとれたそんな感情をうまく扱うんだろうかと思いながら、サクサクとしたクッキーを飲み込んだ。
「レンジで焼くクッキーも意外に上手く出来るものだな」
綺麗な丸の形のクッキーを眺めて、もしも俺が作ったらきっと形はぐちゃぐちゃでとんでもなく甘くて、不格好でみっともないものが出来るだけなのだろうなと思うと、なんだか悲しくなってしまった。
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#1 神様、走る、明け方 神様を信じないドラルクのドラロナ
この世界には当たり前に神様はいない。運命は描かれないし、奇跡も起こりやしない。だから身を引き裂かれるような悲劇も、誰かを呪いたくなるような不運も、誰のせいでもない。空から雨が落ちて地面にぶつかって散るような現象が有象無象の生き物たちの上に、区別なく降り注いでいるだけだ。だから、この恋は運命ではないし、いずれやってくる決別も呪うような悲劇ではない。私が選び、君が手に取ったこれが、神如きに裁定されてたまるもんか。